東京高等裁判所 昭和41年(行ケ)109号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔編注〕一 特許庁における手続の経緯
原告ら(原告三楽オーシャン株式会社の当時の商号は三楽酒造株式会社)は、昭和三十四年四月八日、「ブレビバクテリウム・フラブム細菌の醗酵によるL―グルタミン酸の製造法」につき特許出願をしたところ、昭和三十九年五月九日、拒絶査定を受けたので、同年六月二十九日、これに対する抗告審判を請求し、同年抗告審判第二二六号事件として審理されたが、昭和四十一年六月二日、「本件抗告審判の請求は、成り立たない。」旨の審決があり、その謄本は、同年六月二五日原告らに送達された。
二 本願発明の要旨
ブレビバクテリウム・フラブムをL―グルタミン酸醗酵菌とし、糖類及び醋酸又は醋酸塩よりの醗酵法によるL―グルタミン酸の製造法。
〔判決理由〕(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二、本件審決に、これを取り消すべき事由があるかどうかは、結局、本件審決が本願発明において使用する菌が引用方法(注、引用例は特公昭三二―八六九八号公報)において使用する菌と別異な種に属する菌であることはできないとしたことが認定を誤つたものであるかどうかに帰することは、本件当事者双方の主張、とくに原告らの主張自体に徴し明らかなところであるから、この点について審究するに、(1)引用方法において使用する菌が球菌であるが、僅かに長楕円形を呈するものもあり、その平均の大きさは、0.6〜1.2ミクロンであること、及び(2)本願発明において使用する菌が通常短桿状で、0.7〜1.0ミクロン×1.5〜3.0ミクロンの大きさを有するが、球形はないことは、本件当事者間に争いがなく、また、(3)バージー第六版、二三五〜二三七頁及びバージー第七版、四五四〜四五六頁によれば、ミクロコツカセ科に属する菌の細胞は、自由な条件下においては球状であり、分裂時には、幾分楕円状を呈すること、(4)Aの「鑑定書」によれば、球菌でも分裂の過程においては楕円状を呈することが当事者に知られていること、(5)Oの「鑑定書」及びIの「鑑定書」によれば、引用例における「僅かに長楕円形を呈するものもある。」との記載は、球菌の分裂過程中の観察を述べたものであり(このことは、被告の認めるところである。)、前掲(1)の引用例の菌に関する記載は、帰するところ、球菌の形態を示したものと解せられること、及び(6)本願発明の使用菌に関する本願発明の明細書の記載は、それが桿菌であることを記載したものであることがそれぞれ認められ、この認定を左右するに足る証拠資料はない。しかして、菌がその形態により明確に分類されるべきものであることは、創元社発行「ジヨルダンバロウズ細菌学」第一巻により明らかであるから、前掲(1)から(6)の事実に徴すれば、本願発明において使用する菌は、引用方法において使用する菌とその形態を異にし、したがつて、別異の菌であると認めるを相当とする。したがつて、これとみるところを異にする被告の主張は、到底採用しがたい。なお、被告は、本願発明の使用菌がブレビバクテリウム属に属するとすること、及び引用方法の使用菌がミクロコツカス属に属するとすることに疑問を投げているが、両者がその形態を異にし、しかも、形態を異にする場合には、これを別異の菌とすることが、この分野において正当とされることが前段認定のとおりである以上、そのような細菌分類学上の命名にこだわるべき理由は、少なくとも本件においては、全く存在しないことは、いうまでもないところである。
(むすび)
三、叙上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由があるものということができる。よつて、これを認容する。
(三宅正雄 武居二郎 友納治夫)